私の父は大工の棟梁でした。母が亡くなったあと、父は仕事をやめて一人暮らしをしていましたが、私がたまに帰省すると「ネコを飼うておる」とぽつんと言うのです。
うちの裏山のあたりを縄張りにしているノラ猫のオスで、人になつかないところが父は気に入ったらしいのです。いつもケンカしてキズだらけ、近づけばシャーッと言っていたのを父が手なずけて、体を洗わせるような間柄になったというのです。名前は坂本リュウというのだそうです。でも、私が帰省している間はけっして姿を見せないので、私は「幻のリュウちゃん」と呼んでいました。父の電話で、ケガをしたから洗濯ネットに入れてタクシーで動物病院につれて行ったとか、今日はスーパーで安い魚を買ってやったとか、聞くだけ。
父は昨年、「昨日まで草取りをしていたのに」と近所の方に驚かれるほどあっけなく突然亡くなってしまいました。そして父の死とともにリュウちゃんも姿を消したようです。父について行ったような気がしてなりません。
(坂本きみ)
画像をクリック(タップ)するとウィークリー最新号を読むことができます。

