#わんこ物語

あやしい足跡

営業マンの加藤さんは、田舎の支店から都会の本店に栄転して、うれしいんだけど困ったことがある、と言う。困ったことは、飼い犬のタローの散歩だった。

それまでは田舎道を散歩させていたのだけれど、都会に移り住んだら、周りはアスファルトだらけだ。散歩から帰ったタローが足をひょこひょこしているので、見たら熱いアスファルトで肉球をヤケドしてしまったらしく痛々しい。「ごめん、ごめん」と言って加藤さんはタローの足にヤケド治療の軟膏を塗って包帯を巻いてやった。

それから数日後、加藤さんのマンションに空き巣が入った。このところ空き巣被害が続いているとかで、刑事と鑑識の人たちがきて、ものものしい捜査。床に薬剤を撒くとすべての足跡が浮かび上がった。そのとき「これは何ですかね」と鑑識の人から聞かれたのは、家じゅうにたくさんついている湿った丸い足跡だった。「あ、それはうちの犬の……」「犬ですか?」「はい。犬ですが、包帯を巻いているものですから」。

長年、県警の鑑識で働いている人もはじめて見る形の足跡だったらしい。

(ケンタ)