大正から昭和初期の小説を読んでいると、「閑話休題」という文字に出くわすことがあります。前置きが長すぎたり話が思わぬ方向に逸れたりしたとき「つまらぬ話は止めて」「話を本題に戻すと」という意味。話し言葉にすると、「それはさておき」と振り仮名をつけます。
学生の頃からの友だち、恭介君はこの「それはさておき」で生きているような人です。一緒に呑むときなど彼は聞き上手を絵に描いたようなやつで、こちらの話を最初はフムフムとまじめに聞いてくれます。そのうち、酒がすすむにつれて本領を発揮し、イイネ、ナルホドから、ウマイ! ヤッタネ! スゴイ! のほめ殺しまで、合いの手を散りばめて、話し相手をうまくおだて、乗せていくのです。
調子に乗ってこっちも独りでしゃべりまくってしまい、ノドが渇いてちょっと一息とコップを口にしたとたん、「それはさておき」と彼は言います。
「今日は持ち合わせがないんで頼むよ」。
「いいとも。払いは気にするな」としか言いようのない絶妙のタイミング。一言で局面を一変させる間の良さは格別です。それはもう、磨き抜かれた”芸”の域に達しているのです。ウマイ!