昔の映画

中学生の頃、昭和三十年代の初め、まだテレビのある家は少なく、東京の私鉄沿線の各駅には、必ず映画館が一軒はありました。

東京の郊外の私の家の近くにも、ミリオン座、オデオン座、荏原大映、旗ケ丘新映などの、いわゆる場末三流館があって、邦画・洋画ゴッチャ混ぜの三本立て上映でしたから、数多くの映画を観ることができました。

入場料は五十五円、入れ替えなしだから館内は常に満員。タバコの煙むんむん、トイレの臭いも漂ってくる中、通路に新聞紙を敷いて観ていました。

中学時代の映画日記ノートを見ると、1頁めには昭和二十九年一月『金色こんじきの狼』(銭形平次捕り物控えシリーズ・長谷川一夫)、『曲馬団の魔王』(名探偵・多羅尾伴内たらおばんないシリーズ・片岡千恵蔵)などとあり、今のテレビのように、連続ものが多かったように思います。子どもたちは、どうしても毎週通うように仕組まれていました。

それなのに不思議と三本目には大人向けの恋愛映画が組まれていて、『恋文』『女心は一筋に』などで、口づけ(接吻、キス)シーンを堂々と映していました。子どもたちは顔をそむけながら興味津々で観てましたが、「映画館が私の社会教育の学校でした」と後年、口を揃えて多くの人が言うようになりました。

子どもは、ゴッチャ混ぜを平気で受け入れていくものなんですね。