今までに出会った多くの人々のなかで、なぜか忘れられない名前があります。
小学六年生の夏休みが終わって九月の新学期、わがクラスに一人の少女が転入してきました。特に目立つような所もなく、女生徒仲間とも深く関わらない静かな子でした。ところが、年が明けて中学入学を目前にした二月の末、その子は再び転校して消えるようにいなくなってしまいました。
その名が
風音冬子。
担任の先生の話では、彼女の父親は金銀銅の鉱脈の発見・発掘をするプロ、いわゆる山師で全国を転々と歩きまわっている、彼女も父に従って転入、転校を繰り返しているということでした。
それにしても、なんだかドラマチックな名前ですよね。名前には「その人の運命」が暗示されているのかなぁ。寒い夜などに、ふとその名前を思い出すと、冷たい北風に吹かれながら佇んでいる少女の、哀愁をおびた人生が浮かんできます。友もなく、恋愛もできず生涯独り身。一片の枯葉のような、寒々としたイメージがつきまとう名前。
いや、勝手な妄想をしてすみません。冬子さんは結婚してまったく違う苗字になり、たとえば熱井冬子とか、夏田冬子なんて名前に変わったかもしれない。それに遠くカザフスタンにまで行って「高玉金山」の十倍もの金脈を発見し、お姫様の暮らしをしてるかもしれないのに、ね。ごめんなさい。