大声がいちばん

ずいぶん前の話ですが、女房の母を我が家に引きとることになりました。夫婦二人暮らしのところへ八十歳近い義母を迎える。さぁ、どう対応したらいいのか。そうだ、体験者に聞いてみよう……と奥野君に相談を持ちかけました。彼はワケあって祖父母と長く同居していたからです。そういうことなら任せろ、という顔で助言してくれました。

「たった一つだけ。とにかく大声で話すこと。3 ~ 5 メートル向こうの人に呼びかけるように、叫ぶように」。え、叫ぶ?「そう、叫ぶんだ。老人は誰でも耳遠みみどおになる。はっきり聞こえないのが一番イラつくもんなんだ」。

そうして義母を迎え、奥野君に言われたとおり、大声で話しかけました。喜びましたねぇ。あなたの話はよく聞こえて、よくわかる、とっても嬉しい……。百歳近くで亡くなるまで仲良く暮らしました。

「耳が遠い」で思い出したのは、たしか落語家の名人、八代目・桂文楽さん晩年のエピソードです。インタビューでいろいろ聞かれるけど、相手が何を言っているのかわからない。「えっ?」「えっ?」とたびたび聞き返すのも失礼なので、今ではそういうときニコッと笑ってこう言って済ませています。

「近頃は、たいてい、そんなもんですよ」