兄貴と舎弟

好き者同士が集まって、あちこちの競輪場を巡り歩いた話は前にもしました。その仲間の一人に紹介されて知り合ったのが石井さんです。出会う場所は競輪場の指定観覧席で、常に手下というか子分というべきか、年若い男を連れています。「この車券を買ってこい」「冷たい飲み物を持ってきな」などというと、キー坊と呼ばれるその若い衆は、上官命令を聞く兵士のように従順に動き回ります。

石井さんて何の商売してるんだろうと、みんな不思議に思ってましたが、酒呑みの席でざっくばらんに聞いてみると、「うん、よく世間では、馬鹿で出来ず、利口でなれず、中途半端じゃなお出来ず、なんていうでしょう。あいつ(手下)も俺もそのたぐいですよ」とはっきりいいません。やくざでもなさそうだし、上下関係をわきまえてる二人をみると、そうだ、テキヤかヤシ(香具師)、縁日、お祭りなどに露店を出す流れ人の仲間じゃないかと、みんなで思ってました。

あるとき、そのキー坊が石井さんに「あのー、つかぬ・・・ことを伺いますが……」といったら「バカヤロ、ここは競輪場だ、もっと(運が)つく・・ことをいえ!」と叱ってみんなを笑わせました。また別の日、何か命令調でいわれたキー坊が、ちょっとムクれ気味に「お言葉を返すようですが……」といったとたん石井さんは低い声でこういい返しました。

「お言葉返すな、金返せ」