ネッカイ

東京で大学生暮らしをしていた頃、近くの喫茶店にたむろした仲間に山内次郎君がいました。関東の田舎の出身で、純朴な、愛されキャラでしたが、ときどき常識では考えられないカン違いをしていて、みんなを驚かせたり喜ばせたりするのでした。その極めつけがネッカイでした。

「オレ、今度の連休はネッカイに一泊して釣りをするんだ」と次郎君が言うので「ネッカイってどこだよ」「知らねーの? 伊豆にあるじゃん」
なんと熱海駅で「ネッカイ」と読んだらしく、それまでずーっと「ネッカイ」だと思っていたという、常識では考えられないカン違い。

「そんな熱い海じゃ魚はゆだってるだろうぜ」「ポン酢持ってきゃすぐ食べられるんじゃないの」とみんな、からかうように大笑い。

きまり悪そうな次郎君を、年配の米屋の平田さんがフォローした言葉がやさしかった。「次郎ちゃんよ、そりゃ熱海(あたみ)のことだろ」と。「地名や人名には普通じゃとても読めないのがたくさんあるからさ、気にすることないよ」。

そのとおり、オレたちだって鉄輪(かんなわ・大分県) 川内(せんだい・鹿児島県)などを「てつわ」「かわうち」なんてずっと読んでたんだしさ。

それに内閣には、読み違えで有名な元総理大臣もおられて、踏襲とうしゅうをフシュー、順風満帆じゅんぷうまんぱんをジュンプウマンボ、未曽有みぞうをミゾウユウと読んで平気な顔をしておられましたし。

いやいや、ひとにワルタイをつくのはやめよう。なにそれ? 悪態あくたいのこと?