テケツ

前の号につづいて、昔の映画の話です。

中学生の頃から映画館に通いはじめ、ある映画館の切符切り係のおネエさんと知り合いになりました。そのおネエさんから「ビラした」という無料入場券をもらうことで、いよいよ三流映画館浸りになっていったのです。

「ビラ下」というのは、商店や住宅の塀にポスターを貼り、そのお礼の無料入場券で、毎週、彼女は内緒で渡してくれました。
ちなみに、入場券売り場のことを「テケツ」というのも彼女に教わったことです。一畳の半分くらいの、箱みたいに狭い空間で、館内からの出入り口も小さく、手で這うようにして入り出るときはお尻から、というので手尻てけつというのだそうです。チケットが訛ってテケツになったんじゃないらしい。

ま、そうして毎週のように『笛吹童子』(中村錦之助)や『真田十勇士』(大友柳太郎)の連続活劇時代物をダラダラ観ている中で、なんと『七人の侍』(黒澤明監督)、『二十四の瞳』(木下恵介監督)などの名作や日本初のシネマスコープ上映『帰らざる河』(ロバート・ミッチャム、マリリン・モンロー)に出会って、驚き、感動し、映画青年に成長していくのですが、テレビの猛烈な普及によって、日本映画の最盛期は昭和三十三年をもって下降になっていくのです。

ビラ下やテケツは、今でも業界で使われているのでしょうかね。