ジャンケンのときの「最初はグー」という掛け声は、後出し、先出しのないよう、気をあわせるためのようで、昔はなかったけど、最近は皆こうするようになったのです。
やりとりを繰り返しているうちに、しだいに他の客も加わって、十二、三人ほどが卓を取り囲む。いい塩梅を見はからって村田君は、「時間も晩くなりました。どうですか。これで終わりにするけど、思い切ってレートを一万円に上げてみませんかね」。何人かは去ったが、卓上には十万円が積みあげられた。
「ようし、最後はオレに音頭を取らせて下さい」。文句のないのを見てとって、身ぶりもやや大げさに、
「最初……」と言いだすや、みんなは、最初はグーの型通りに握りコブシをつくって前に出す。
村田のやつは、
「最初から、ポン!」と叫んで、パーを出したんです。そして、すばやく十枚の札をかき集めると、あっけにとられて「オイ、オイ」とか言っている連中には目もくれず、外へ出て思いッ切り、駆け出したのでした。