はばかり

友人の家に立ち寄ったら、あいにくの留守。

「すぐ戻るはずですので、お茶でも」と部屋に上げてもらいました。

孫の大学生麻梨香ちゃんがいて、老人のお相手をしてくれるのも嬉しい。

しばらく雑談の途中ふと尿意を催して「すいません、はばかり・・・・を」と言ったら「はばかりって何ですか?」とけげんな顔。「トイレを」と言い直せばそれで済むものを、そこが年寄りの悪い癖。相手かまわず能書きをたれたくなっちゃうんです。

「小便がしたいから便所を借して、などと言うのは下品ですから、昔は、はばかり・・・・、かわや、雪隠せっちんなどと言ったもんでね」と言いかけたら、ハイハイこちらですよ、と案内されちゃいました。

部屋に戻って十九歳の女子じょしに負けないように「さっきの続きだけどね、日本には、御手水おちょうず、ご不浄ふじょう、お手洗い、化粧室、洗面所、いろんな呼び方があってね、戦後はWC、トイレットを略したトイレが普通になったわけ」と語る。さて、ここからが聞かせどころだと力を入れて「もしあなたが上流階級の家に行くことがあれば、トイレなんて口にしただけで教養がないと思われますから、そういうときは『この家の間取りを教えてください』と言うのです」と教えてあげました。すると彼女は驚いた顔で、

「えーッ、間取り? 何だか空き巣狙いの下見みたい」だって。一撃のもとに能書き老人をノックアウトしてしまったのでした。